Shugo Tokumaru "Port Entropy" Review

本日、京都タワーレコードで購入し、感想というかレビューを書きました。かなり抽象的な内容になっていますが、これも作品に対する愛情かなと。

ポート・エントロピー

ポート・エントロピー


"Platform" 牧歌的なメロディを奏でる楽器団が街に目覚めの鐘を鳴らしに来た。パレードの始まりである。


"Tracking Elevator" 水平線に続く音色と、軽快な足音が聞こえてくるような感覚。


"Linne" 胸を締め付けられるような歌声に切ないピアノの旋律が乗る。辺りは静まり返り、繊細なメロディが響き渡る。今作の中で何度も聴き入ってしまう曲。


"Lahaha" 一転して明快な曲調に。小刻みなカッティング、跳ねるリズム、強弱を意識した楽器群。「今なら見えるのに 今なら言えるのに」。小鳥のさえずりが響く。どこに飛んで何を見下ろし、鳴いているのだろうか。


"Rum Hee" 重みを感じさせない柔らかく、明快なリズムはこどもの足音のよう。楽器の一つ一つがとても軽く、それでいて美しい調和を生み出している。


"Laminate" 優しく包まれるような歌声が印象的。海の流れやせせらぎを彷彿とさせる音に心地よさを感じる。それでいて遊び心にあふれた曲構成は圧巻と言うしか無い。


"River Low" フォークやカントリー要素が散りばめられ、生活の音色がキャンバスを彩る。言葉の連なりが中毒的で気持ちいい。


"Straw" 力強く爪弾かれるギターと、しなやかなリズムが特徴的。大胆に打ち込み的なドラムが新境地か。トクマルシューゴ流ダンスミュージック。


"Drive-Thru" どこか懐かしい曲調で、60's後半のポップスが現代によみがえったかのような感覚を受ける。1曲の中でテンポを自在に操るのがポップマエストロたる所以だと私は考えているのだが、この「Drive-Thru」でも健在だ。


"Suisha" 今作の中でも唄に重点を置いたのが「Suisha」ではないだろうか。繊細なメロディ、ふわりと折り重なるアナログの楽器たち。水車の軋みさえも空にとけ込んで、ハーモニーを生み出しているような、そんな光景が浮かぶ。


"Orange" ステンドガラスにオレンジ色の優しい斜光が差し込んでくるかのような日。名前のない楽団が教会でひっそりと演奏しているかのよう。


"Malerina" トクマルシューゴがレゲエの楽団を率いると……。いい意味でチープな演奏はまわりの聴衆を巻き込んでパレードを続ける。夜は長く、終わることはないようだ。


前作『Exit』はトクマルシューゴの集大成的アルバムであったように思う。まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのような音の粒が僕たちを夢の世界へ連れて行ってくれた。そこから生み出された『Rum Hee』は『Exit』の延長線上に位置しているように感じられたが、より密に作り込まれたメロディ、軽やかなリズムは進化を感じさせた。そして今作『Port Entropy』であるが、思っていたよりは音数も少なく、余分なものが削ぎ落とされたような印象を受けた。彼の優しさに満ちた歌声は、色彩豊かな楽器群に調和し、悠久な草原を思い起こさせる。のびのびと演奏を心から楽しんでる、そしてパレードは続くよ、と教えてくれる作品だ。